

鈴木 単価があまり高くない文房具などを中心に扱ってきた中で、そのような高額のイスを扱うには、過去の考え方を大きく変えていく必要があったのではありませんか。
岩田 以前扱っていたのは2980円のイスが中心で、それがよく売れていた時にマーチャンダイザーは、さらにたくさん売るためにコスト競争力を高めて2480円、1980円のものを開発しようと努力していました。しかし、お客様はほんとうに安さだけを求めているのか、価格が高くてもデザインの良いイスや、座り心地に心から満足できるイスを使いたいというのがお客様の心理ではないか、と考えました。そこで、デザインが優れている1脚10万円台のイスも扱うようになったのです。そうすると、2万〜3万円台のイスが一番売れるようになりました。
鈴木 それはあらゆる商品について言えることですね。お客様は安いから買ってくださるわけではありません。たとえば牛肉にしても、いま100g 500円から1000円の肉がよく売れているからといって、その価格帯だけで考えていたのでは、お客様のほんとうのニーズはつかめません。4000円のものから3000円、2000円台のものをきちんと揃え、そのうえで500円から1000円のものまでが選べるようになれば、高単価の肉もしっかり売れるようになります。
岩田 おっしゃる通り、いまのお客様は自分の価値に合わせて商品の使い分けをしていて、高いモノから安いモノまで、売れる物の幅が極端に広がっています。
鈴木 モノ余りの時代は、お客様はいままでにない価値のある商品を求めています。デザインが優れているとか、ファッション性などが重要になっているわけです。そうした商品を提供していくには、お客様のニーズを聞いて、自分たちで商品を開発することも必要になってきますね。セブン‐イレブンでは、創業時から他の小売店と差別化を図るためにオリジナル商品の開発に力を注いできました。その結果、今では売上げの50%以上がオリジナル商品となりました。また、セブン&アイHLDGS.においても、各事業会社がいっしょになって商品開発を進めるグループ・マーチャンダイジングに挑戦を続けています。
岩田 アスクルのオリジナル商品は20%くらいです。会社を立ち上げた当初は、とにかくご注文いただいた商品を明日お届けすることに全力を挙げていましたが、その中で、だんだんお客様のニーズが立体的に見えてくるようになりました。そこで2000年頃から、ニーズがあるのに世の中には存在していないモノを、自分たちで商品化し始めました。
鈴木 お客様のニーズといっても、いま世の中にない商品に対して、お客様が具体的なイメージを持って「こういう商品が欲しい」と言ってくださるわけではありません。商品の売り手やつくり手が、自分たちでいろいろと仮説を立てて提案していかないといけません。
販売データを見て、この商品はニーズがある、ニーズがないと判断しがちですが、そうではありません。そこに現れているのは売場に並ぶ限られた商品の中だけの話です。しかも、データはつねに過去の数値です。いまお客様が求めているモノは、その数値だけを見てもわかりません。仮説を持ってお客様に提案し、その結果、数値がどう変化したのかを見ていかないといけませんね。
岩田 おっしゃる通りです。私どもも、たとえば10万円のイスという仮説を立てて商品を提案したらこれだけ売れた、それでは、2万円のイスならどうか。そのイスが使われるのはどんなオフィスなのか、というような仮説を立てて考えるようになってきました。
そのような形で、いま社内では「ネオマス」「ニューマス」と呼んでいるオリジナル商品づくりにいたりました。たとえばオフィスで使う紙コップは、これまで白い無機質なものばかりでしたが、これに柄を入れてみました。そうすると、単価は少し高くなったのですが、紙コップ全体の売上げは6倍も伸びたのです。やはり、事務所でお客様にお茶をお出しする時は、デザインのあるコップの方が、ていねいにお迎えしている感じで気持ちが良い。そういうことが大切だと気づきました。
いままでにない価値というと何かニッチ商品のようで、ニーズも限定的だと思われがちですが、そうではありません。実は多くの人が心の中で求めており、大きなニーズがあります。「ニューマス」では、そのようなニーズへの対応を図っています。
鈴木 もう一方で、消費飽和の時代は、そうした価値ある商品をお客様にきちんと伝えていくことが必要ですね。モノ不足の時代のお客様は、何かいいモノがないかとゆっくり売場を見てくださいましたが、今のお客様はまったく違います。我々の店舗では、商品の価値を伝える演出、接客サービス、お客様の目をひきつけ衝動買いを促す売場づくりに努めています。アスクルさんでも、カタログなどでブランドや信頼性をきちっとお客様に伝えていくために、質の高い情報を発信していかなければなりませんね。
岩田 その通りです。カタログの中で、そうした価値ある商品が埋もれてしまわないように、いかに一つひとつの商品の価値を伝えていくか、つねに工夫しています。
メーカーにいた時に感じていたのは、自分たちがどんなにいい商品をつくっても、それが店頭で目立たなければ、お客様にその良さに気づいてもらえないということでした。それが伝わらないために在庫として残ってしまうという悔しい思いもしました。