


(いわた・しょういちろう)
1950年大阪府生まれ。
1973年慶應義塾大学商学部卒業後、ライオン油脂(現ライオン(株))入社。
1986年プラス(株)に入社。
1992年新規事業の開始にあたり、アスクル事業推進室室長に就任。
1997年アスクル(株)分社にともない、同社社長に就任。
2000年社長兼CEO 就任。
2004年4月に東証第1 部上場を果たす。
2004年経済同友会幹事就任、2006年度ITによる社会変革委員会委員長就任。
2006年6月資生堂社外取締役就任。

鈴木 アスクルさんは、カタログ販売で事務用品から家具にいたるまで、オフィスのニーズに応え、しかも注文の翌日に納品するというお客様のニーズに即応するスピードを武器に、会社設立以来、増収増益を続けていらっしゃいますね。
私は、現在の消費飽和の市場は、こちらからお客様のニーズをうかがって商品をお届けする「ご用聞き」の時代だと言っています。かつてお客様の購買意欲が旺盛だった時代には、売場に商品を並べて売れば、お客様が欲しい商品を探して買ってくださいました。しかし、モノ余りの時代になると、売り手の方が積極的にお客様に働きかけ、商品の価値を伝えたり、お客様のニーズをお聞きしていかなければ買っていただけなくなりました。アスクルさんは、その「ご用聞き」の時代にマッチしたビジネスモデルをつくられてきたと思うのですが、そのきっかけは何だったのか、お聞かせください。
岩田 私は、はじめライオンに入社してヘアケアの商品開発に携わり、その後、文房具・オフィス用品を製造するプラスに移って、商品開発を担当することになりました。
1990年にプラスの社内で今泉社長のかけ声のもと「ブルースカイ委員会」が発足し、21世紀の文房具の事業はどのように変わり、そこでプラスのビジネスをどう変えていくかを議論しました。その時に、あらためて自分たちのお客様は誰かという議論をしたのです。従来、メーカーが商品を買っていただく相手は、卸か小売の方ですから、自分たちのお客様は、問屋さんや小売店さんという認識でした。しかし、その時の議論の中で、ほんとうのお客様は、最終的に商品を消費する方だということ、その最終のお客様のもとへ社会的に見て最も効率的に商品をお届けする「社会最適」の仕組みを目指すということ。この2大原則が委員会で決まり、それに基づいたモデルをつくってビジネスが始まりました。
鈴木 最初はプラスさんの事業部としてスタートしたわけですね。
岩田 事業部といっても最初は4人だけでしたから、一人で何役もこなしました。私もお客様から電話でのお問い合わせを受けました。その時、たとえばお客様からは、ライバル会社のファイルは扱っていないのかといったご要望がかなりありました。最初の頃は「ライバル会社のファイルは扱っていないが、プラスのファイルはこんなに良い商品なので、ぜひ使ってみて欲しい」というようにお客様を説得していました。そして、お客様と電話で話し、自分たちの商品を直接売り込めるビジネスが素晴らしいと思っていたのです。
しかし、その後、売上伝票を調べてみると、電話で「買ってみましょう」と良い返事をしてくれたお客様からの注文がない、繰り返し利用されていないということがわかり、愕然としました。お客様は、自分の欲しい商品がないとわかると、黙って去っていったわけです。お客様からすれば、自分が使いたい商品を自由に買いたいと思うのは当たり前のことですが、その「当たり前」に気づくまでに3年かかりました。そのことに気づき、お客様が求めるものを提供する、そのためには他社の商品も扱うというようにビジネスのあり方を変えることで、成長を始めました。
鈴木 自分たち売り手の都合を押しつけるのではなく、いかにお客様の都合に合わせて自分たちの仕事を変えていくかが重要ですね。しかし現実には、メーカーさんの事業部でありながら、ライバルメーカーさんの商品も扱うのは、社内的にずいぶんと風当たりが強かったのではないですか。
岩田 ライバルの商品を売るなんて何ごとかと、社内からも強い反発の声があがりました。また、小売店さんからも、「メーカーが自分たちで最終消費者に直接商品を売り込むのは、小売店を無視する行為だ」など抗議の電話がたくさんきました。このようにさまざまな議論がありましたが、最後にはプラスの今泉社長の英断により、すべてが動き出しました。
鈴木 セブン‐イレブンを始めた時も、社内外に大きな反対がありました。また、セブン‐イレブンのような小規模な店舗に合った納品ロットや24時間年中無休という体制に合わせて納品してもらえる流通の仕組みもありませんでした。セブン‐イレブンの考え方をお取引先に理解していただき、一つひとつ自分たちで解決していったわけです。
あらゆるものをお客様の立場で考えれば、自分たちが何をしなければならないかが自ずと明らかになります。お客様のニーズに応えるためには、それを信念を持ってやり続けることが必要ですね。
岩田さんたちが、注文の翌日に必ず商品を届けるというのもお客様の立場で考えて、自分たちに厳しい条件を課したわけですね。明日でなく、明後日に届けるということでも、お客様は許容してくれたのではありませんか。
岩田 確かに「全部の商品を注文の翌日お届けするのはムリではないか」「お客様に納得していただいたら翌日でなくてもいいではないか」とできない理由を挙げる人が大勢いました。しかし、どの商品を注文しても必ず明日納品されるとわかっていれば、お客様はあらためて納期のことを考えなくても良いわけです。ですから、注文があったら明日商品をお届けすることをお客様との約束にしようということで、名前も「アスクル」としました。そして、会社を設立した時に「お客様のために進化する」という企業理念を決めて、お客様との約束を守り、ニーズの変化に対応することに徹底して取り組んできました。
鈴木 取扱商品も急速に増加してきているのではありませんか。
岩田 取扱商品は最初500アイテムから始まり、いまでは約2万アイテムにまで増えています。水を持ってきてくれると便利だという声があれば水を扱いますし、コンピュータの周辺機器もあれば良いのにという声があればそれにも応えるというように、文房具以外の商品もどんどん増やしていきました。
2004年からは、医療関連の商品も取り扱い始めました。アスクルを始めた頃は、単にオフィスへの商品納入と考えていたのですが、実際にビジネスを始めてみると、一口にオフィスといってもさまざまな業種があり、それぞれニーズも違っていました。病院や介護施設のお客様のご要望をうかがうと、医療用品は注文してもなかなか届かない、せっかくアスクルがオフィス用品をすぐに届けてくれるのだから、ついでに医療用品もいっしょに持ってきてくれると助かる、という声がかなりあったのです。そこで、医療用品もお届けするようにしたところ、たくさんの病院・介護施設の方がお客様になってくださいました。家具も扱っていて、私たちの取扱商品で単価の一番高いイスは29万8000円です。