

堀木 そのようにお客様の立場に立った商品や売場をつくるためには、どうしたら良いとお考えですか。
鈴木 一つは商品をつくってからお客様にお届けするまでのプロセスを、一貫したものにすることです。商売は本来、自分で仕入れて、自分で売ることが一番良いのです。なぜなら、その商品の特徴がどういう点で、どのようなお客様にマッチするかということをよく理解して、お客様に提案できるからです。しかし、組織が大きくなると仕入れから販売まで1人で行うことは不可能です。そのために、仕入れと販売の役割を分担していても、あたかも1人の人であるように、情報を共有化することが大切です。
本づくりでも、取材する人、編集する人、売る人の連携が大切なのではないですか。
堀木 おっしゃる通りです。雑誌ももちろん連携が大切ですが、書籍はそれ以上に本をつくる人から売る人までが連携して、どれだけの書店さんで、何冊くらい売るのかということがわからなければ印刷する部数も決められません。
鈴木 シャツを売る場合でも、本来はどの店舗でどれだけ売って、何店舗に商品を入れるかということがわからなければ、生産の計画が立たないはずです。ところが従来は、バイヤーは過去の実績に頼って勝手につくる枚数を決め、各店舗に商品を入れていました。
また、バイヤーも、セーターの担当、ブラウスの担当というように、担当が細分化されていました。
堀木 それではコーディネートができませんね。
鈴木 各バイヤーをとりまとめるシニアバイヤーを置いて、各商品のコーディネートにも目を配る体制にしていたのですが、それでも目が行き届かないところが出てきます。ですから、思い切ってバイヤーの数を減らして、1人1人のバイヤーが担当する範囲を広くしました。
堀木 よく専門店のカリスマ店員が話題になりますが、その人たちは頭の上から足元まで、全部お客様の面倒を見られるので、お客様にものを買ってもらいやすいわけですよね。スカートのことだけしかわからずにスカートを勧めても、お客様には受け入れてもらえません。
実は、雑誌でいま一番人気があるのは、モデルさんに服を着せて見せるページではなく、「置き撮り」といって、ジャケット、ブラウスや靴、バッグまでコーディネートして、商品だけを撮影して紹介するページです。顔の部分は読者自身がイメージできるのですが、何をどのようにコーディネートしたらいいのかがわからないので、そのようにコーディネートを紹介するページがウケているのかもしれません。買い手が売場で求めているのも、やはり具体的なコーディネートではないでしょうか。
鈴木 いま小売業ではネットの活用がたいへん重要になっています。業態別の売上高を見ると、スーパーストアが最も売上げ規模が大きくて14兆円ほどあり、デパートとコンビニエンスストアはそれぞれ8兆円ほどあります。その中で、ネット販売を含む通信販売が、デパートやコンビニエンスストアを上回る売上げ規模になっており、これからネット販売はさらに大きく成長していくでしょう。私たちもその活用の仕方を考えなければいけません。
堀木 確かにいま、私の周囲でもみんな携帯電話でものを買っています。ネット販売というのはすごい勢いで伸びていることが実感できます。そうなるとやはり、ショッピングの感覚も変わってきますね。
鈴木 ネット販売というのは、家庭やオフィスあるいは個人、個人のもとまで出向いていって注文をとっているわけですから、まさに「ご用聞き」です。そこまで、お客様に働きかけていかなければ、ものが売れない時代になってきました。
お客様への働きかけという点では、プロモーションも重要だと考えています。本や雑誌の世界でも、いまプロモーションが盛んに行われているようですが、堀木さんはどのように考えていらっしゃいますか。
堀木 書籍や雑誌もプロモーションによって売れ行きが大きく変化します。書籍にしても、たくさん売ろうとする場合は、まず書店さん向けのプロモーションを行います。本を発行する2カ月前くらいからプロモーションをかけますが、その段階では本の内容は一部しか公開せず、本の情報に対する一種の「飢餓感」をつくり出します。そこで書店の方にどういうものが出るのかと関心を持ってもらい、3週間ほど前になったら情報を全面解禁します。そして、発行日の数日前にいろいろなメディアで大きく取り上げてもらい、読者に働きかけていくという流れです。
鈴木 プロモーションによって印象づけられると、お客様が売場に行った時にも、その商品が目にとまり、手にとってみようという気になります。私は「衝動買い」の時代だと言っているのですが、消費飽和の時代にはそのような動機づけがたいへん重要です。そうしないとどんなに良い商品でも、たくさんある商品の中に埋もれてしまいます。
堀木 雑誌や書籍の場合、書店さんで良い場所に置いてもらうことも重要です。いま、書店さんに行って時間をかけて隅々まで見てくれる人は少なくなっていますから、隅に置かれると、その本が出たことさえ気づいてもらえません。
鈴木 セブン‐イレブンの雑誌コーナーでは、あれだけ限られたスペースでも、並べる雑誌の種類を絞って、一つの雑誌に2〜3フェース取ると、雑誌全体の売上げが伸びます。個々の書店さんで大きく扱ってもらうには、各店舗にできるだけたくさんの部数を配本しなければなりませんね。
堀木 そうですね。売れる本は最初からたくさん刷って店頭に大量に並ぶのでますますよく売れるという好循環になり、売れない本は書店に置かれる部数が少ないのでまったく売れないという悪循環に陥っています
ですから売場でのアピールは、ほんとうに重要ですね。私たちがつくっている雑誌も、コンビニエンスストアの雑誌コーナーでいかに目立たせるかということを考えています。たとえば表紙も、陳列棚で見えている上から4分の1の所がよく目立つようにして、かならずキャッチコピーを1行入れています。
鈴木
そのようにお客様の目線で考えたきめ細かなつくり込みと、プロモーションなどの大きな仕掛けでお客様の関心を惹きつけることが、ヒットにつながっているのですね。
いま、私どもセブン&アイHLDGS.は、ブランド価値を最大化していくために、あらゆる点で改革を進めているのですが、今日は、トレンドの最前線に立って活躍されている堀木さんから、いろいろ参考になるお話をうかがうことができました。ありがとうございました。