新・総合生活産業  変化し続ける社会の中で、進化し続ける「新・総合生活産業」を目指しています。

対談 ブレイクスルーのヒント

経験や勘ではなく情報を活用した「科学的経営」へ

鈴木 私がセブン-イレブンを日本で始めたのも、日本の中小小売店の経営を近代化するというのが大きな目的でした。その頃はスーパーの成長期で、各地にスーパーが店舗を展開していく中で、地元の中小小売店からは「スーパーが進出したので商売が不振に陥った」と言われるようになり、反対運動が起こったりしました。私から見ると、中小小売店不振の最大の原因は、スーパーとの競合ではなく、効率的な経営の仕組みがなく、生産性が低いという点でした。そこで、店舗運営を近代化して生産性を高める経営を目指してセブン-イレブンの仕組みを考えました。

星野 流通業の中で、セブン-イレブンの仕組みをつくられたというのはたいへん革新的なことだと思います。それを実現するには、大きな抵抗や反対もあったのだと推察しますが、いかがですか。

鈴木 当初、セブン-イレブンで扱う商品というのは、すでに商店街の中小小売店でも売っているようなものがほとんどでした。理屈から言えば、お酒一つとっても、町の酒屋さんの方が、たくさんの種類が揃っているので、セブン-イレブンがかなうはずがないわけです。セブン-イレブンを導入すると私が言い出した当時、「商店街にはいろいろな専門の商店がすでにあるのだから、わずか30坪程度の小さな店をいまさらやっても成功するはずがない」という反対意見ばかりでした。
しかし、私が考えていたのは中小小売店の生産性を上げるという点でした。その時も生産性という視点での反対論はまったく聞かれませんでした。ですから、反対があってもセブン-イレブンのような仕組みが必要だと考えて事業を進めたわけです。実際に、セブン-イレブンは、お客様がほんとうに求めている商品を選りすぐって組み合わせることで、それまでの中小小売店が1日数万円の売上げしかなかったものを、1日数十万円まで高めました。それだけ生産性を上げたわけです。

星野 現在の日本の温泉旅館も効率が悪い状態です。スタッフが固定的に配置されているので、1人1人の手待ち時間がたいへん長く、生産性が低いのが実態です。チェックイ ンを担当するスタッフが、食事の用意からお見送りまでできるようになれば、ずっと生産性が上がるはずです。
また、月曜日から金曜日までの平日は宿泊される方が少なくなり、休日になると多くなりますので、労働力の平準化ができる仕組みを構築することも生産性を上げる上での大きなポイントとなると思っています。

鈴木 効率を上げ、生産性を高めていくためには、これまでの経験や勘ではなく、自分のお客様にしっかりと目を向けて、いまのお客様が何を求めているかなど、客観的な情報を収集、分析し、それを商品・サービスの開発に活かしていく仕組みが必要です。

星野 まったく同感です。日本のリゾート、温泉旅館では、長い歴史を持っているところ が多く、過去の経験などに基づいた感覚経営になっているところも多いのです。しかし、これからは経営者の経験や直感に頼るのではなく、顧客情報をはじめとしたさまざまなデータ、社員の声などあらゆる情報を集め、戦略的に事業を進める「科学的経営」が必要です。

お客様の立場に立った「プル戦略」への転換

鈴木 日本の旅館というのは、チェックインは何時から何時まで、食事は何時と、決めていますね。しかし、それは旅館側の都合をお客様に押しつけているわけで、お客様の立場に立ったサービスとは言えませんね。

星野 おっしゃる通りです。都会に住んでいるお客様は、いまやレストランも24時間営業がふつうで、自分の食べたいときにいつでも食事ができます。それが、旅館にいくと朝は8時までに食べなければいけないというのは、お客様にとっては不便ですね。
私はそのような旅館側の都合をお客様に押しつけるのではなく、お客様のニーズに合ったサービス提供へと発想を変えることが重要だと思っています。いわゆる「プッシュ戦略」から、旅館の魅力によってお客様に宿泊したいと思っていただけるような「プル戦略」にもっていこうと考えています。

鈴木 私は、自分たち売り手の都合ではなく、あらゆることを「お客様の立場に立って 考える」ようにと言い続けてきました。お客様の立場に立つというのは、自分たちにとって都合の悪いことでも、お客様が求めていることを実現するためには、そのニーズに合わせて自分たちを変えていくという考え方です。現在のようにお客様が価値を認めたものしか買っていただけない買い手市場の時代には、自分たちの都合ではなく、徹底してお客様の立場に立って商品やサービスを見直し、それに合わせて仕事の仕方を変えていかなければなりませんね。
プッシュからプルへの転換というのは、日本の旅館の人で気づいている人は少ないのですか。

星野 いいえ、気づいている人は多いと思います。ただ、いままでの考え方を変えていく には、たいへんなエネルギーが必要です。従来は新規参入に障壁があったので、一つの温泉街や観光地の中だけで考えている限りは、他と競争する必要がなく、自分のところだけを変えていく必要性を感じていなかったのだと思います。
かつてはそれで問題がなかったのかもしれませんが、いまは違います。80年代以降、海外旅行をする人の数は大幅に伸びています。海外ではいまや24時間ルームサービスが当たり前で、その他にも、いろいろなサービスの選択ができるようになっています。海外旅行で、そのような世界のスタンダードを経験したお客様が増える中で、日本の温泉旅館が従来通りのサービスをしていたのでは、お客様に満足していただくことはできません。海外の観光地と競争しているのだという意識を、日本の旅館、観光業界が持ち、自分たちを変えていかなければ、これからの成長は望めません。

鈴木 変えるというのは、口で言うのは簡単ですが、実際に行動を変えるのはほんとうに 大変なことでしょう。行動を変えて、成果を上げられれば、それが次の行動につながるのですが、最初の壁を破るのがたいへんです。

星野 おっしゃる通りですね。私が最初にリゾート再生の仕事に取り組んだのは、「リゾナーレ」でした。ここは再生に取り組んで3年で黒字化することができたのですが、黒字化するまでは、毎週、スタッフとの会議に出て細かいところまで指示を出していましたが、いったん黒字化するようになると、社内の雰囲気も変わってきました。社員からの情報発信も増えて、好循環ができ、私も細かなところまで指示をしなくて済むようになりました。