


(ふじさわ・くみ)
1967年生まれ。
1989年大阪市立大学卒業後、投資運用会社を経て1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。
1999年に同社をスタンダード&プアーズに売却、2000年、シンクタンク「ソフィアバンク」設立に参加し、現在副代表。
2003年より社会起業家を支援する「社会起業家フォーラム」副代表。その他、金融審議会、税制調査会等政府研究会の委員も兼務。
近著に『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』。

鈴木 藤沢さんは、テレビやラジオの仕事を通じて、全国各地へ実際に出かけて、ご自分の目で元気の良い会社やお店をご覧になって、大きく変化している社会やビジネスの現状を分析されていますね。今回は、そういう藤沢さんの目から見て、消費者はいまどう変化しているのか、いま求められている小売業のあり方とは何なのか、などについてうかがいたいと思います。
昨今は、消費飽和の時代だと言われています。食品と衣料で見ると、食品の場合は、買った物は食べてなくなってしまうので、いくら消費飽和でも商品が売れるチャンスはあるが、衣料は買った物がなくならないので、もはやそれほど売れないのではないかという声も聞きます。しかし、私はむしろ、食品よりファッションの方が売れるチャンスが大きいのではないかと考えています。なぜなら、人が食べることのできる量というのは、自ずと限界があるでしょう。最近の日本のように人口が減少していて、しかも少子高齢社会で食べ盛りの人の数が少なくなっては、なおさら食べる量は減ってしまいます。それに対して、ファッションは、新しい物や良い物が出てくる限り、お客様はずっと買ってくださいます。これだけ買ったらもうそれ以上買わない、というような限界はありません。その意味で、ファッションは無限に売れていく商品ではないでしょうか。
藤沢 なるほど、おっしゃる通りですね。最近では、ネットのオークションやリサイクルなどの仕組みが、消費を加速させています。ですから、いままでにない新しい物を出し続ければ、無限に買っていただける可能性があります。また、食品の場合も、いまや消費者は量ではなく質に対してお金を出すようになっています。たとえば、レストランにしても、食べる時の雰囲気のようなものを、お金を払って買っている感じですね。そう考えますと、消費飽和の時代といっても、商売の可能性は、それこそ無限にあり、私は、たいへん面白い時代ではないかと思っています。
鈴木 ほんとうに商売にとって面白い時代です。もっとも、その中で成果を上げ続けていこうとすると、相当知恵を絞らないといけません。
藤沢 現在は、たんに物をつくるのではなく、よくマーケットを見て、考えて物をつくれば、考えた分だけ対価を得ることができる時代だと思います。そういう意味でたいへん大きなチャンスがあるのではないでしょうか。野菜を販売している方と話をしたのですが、その方が言うには、年配の方は、食品の中にどんな健康に良い成分が含まれているかということを気に掛け、中に入っているものの価値を認めてお金を払ってくださるのだそうです。それに対して若い人は、「何が含まれていないか」を重視して、着色料や保存料が使われていないということに対してお金を払ってくれるのだという話でした。つまり、付加価値を付けるといっても、なんでも付け加えれば良いということではなく、付け加えないことも付加価値を生む、というわけです。
鈴木 確かに新しいチャンスに満ちている時代ですが、従来の消費パターンで考えていては、もはや通用しませんね。私は、何年も前から、「ご用聞き」の時代だと言い続けています。しかし、いまでこそ、多くの人が耳を傾けてくれるようになりましたが、当初は、「『ご用聞き』など大昔の商売の仕方ではないか、いまどき何を言っているのだ」という反応でした。
藤沢 最近のネットビジネスはまさに「ご用聞き」ですね。ちょっとデータを送ると、「そろそろ化粧品がなくなった頃では?」とか「冬のお肌の乾燥対策にこういう新商品が出ましたよ」とか、あるいは「そろそろ結婚記念日ですね、旅行はいかがですか?」とか、ほんとうにさまざまな「ご用聞き」が、自宅のパソコンにやって来ます。
鈴木 そう、ネット販売というのは、ネットを通じて個人や家庭の中へ入り込んでいくわけですから完全にご用聞きです。しかも、それがたいへんな勢いで成長しています。小売業の業態別の売上規模というのは、統計の取り方によってかなり幅があるのですが、大まかに言いますと、スーパー(量販店)業態の売上げは、現在だいたい14兆円程度あります。これに次いで百貨店業態が8兆円ほど、コンビニエンスストア業態もほぼ同規模です。これに対して、通信販売とネット販売を合わせると、7〜8兆円あります。しかも、通信販売とネット販売の市場は、ここ数年20〜30%の勢いで成長していますから、すぐに百貨店やコンビニエンスストアを追い越し、スーパーの売上規模に追いつくのも時間の問題だと思います。ですから、「ご用聞き」はいまや、時代の最先端だと考えないといけません。
藤沢 ネットというのはたいへん面白い世界です。ネットの中では、直接対面している時のような細やかなコミュニケーションが失われると思われていましたが、実際は、対話が盛んになっています。そして、ネットでは顔が見えないだけに、かえって相手の人がいま何を考え、どう感じているか、たった一言からでも注意深く読み取ろうとします。その結果、対面している時よりも、お客様に対する感度が高くなっています。
先ほど、「ご用聞きは過去のものではないか」という反応が返ってくると鈴木さんはおっしゃっていましたが、実は「ご用聞き」だけでなく、ネットによって高度成長期以前の買物の仕方が、よみがえっているように思います。たとえば、かつて、商店街の鮮魚店に行って、サンマを1尾100円で売っていると、買物に来たお客様は、「4尾買うから350円にまけてよ」というような会話をしました。このような買物のスタイルは、スーパーが全国各地にできて、正札販売が当たり前になって消えていきました。しかし、いまやネットでオークションが生まれ、商品を売りたい人と買いたい人の間で価格交渉を行うというようなこともよみがえってきました。
鈴木 ただ、注意しないといけないのは、いま求められている「ご用聞き」は、過去のご用聞きとは同じものではないということでしょうね。かつては、どちらかといえば、こんな商品はどうですかと売り込みにいくような、単純なものが多かったわけです。それに対して、いま必要とされている「ご用聞き」は、お客様の生活、年齢、性別、嗜好などから、「このお客様はこういう商品を望んでいるのではないか」と考え、提案していくことです。
藤沢 ネットはかつてあったご用聞きや価格交渉の世界を復活させましたが、それらは以前よりも一段階レベルを上げた形になりましたね。