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対談 ブレイクスルーのヒント

モノマネは時代に逆行している
自ら考え動く「自動者」になれ

鈴木 私は、あらゆる業務において仮説を立て、実行し、検証をくり返すようにと指導してきました。そうすると皆は、過去のデータや現状分析に基づいて、過去1週間にこういう物が売れたから、明日はこれが売れる、昨年はこの時期にこういう商品が売れたから、今年はこう計画していくというような仮説を立てるわけです。それでは、結局、過去の引き延ばしでしかありません。私の言う仮説とは、お客様がいま何を考えているのか、明日、雨が降ったらお客様はどういう購買行動を取るのかということを、情報を集めてきて考えることであって、過去の事実はまったく関係ないのです。しかし、それがなかなか理解してもらえません。

日比野 従来の思考体系では、現状分析から、考え始めますから、仮説も過去の延長にならざるをえません。激動する時代においては、場の設定(誰の視点で、未来の視点で、何処の視点)から根本を追求し、未来のあるべき姿から、仮説を立てるべきなのです。そのためには、従来のデカルト思考だけでなく、ブレイクスルー思考を持つ必要があります。この2つの思考を持つ「ハイブリッド思考」が必要なのです。多分皆さんが理解できないのは、従来の思考で、仮説を立てようとしているからだと思います。
たとえば、高速道路でスピードを上げて走っている時に、後ろを見て運転していたのではたいへん危険でしょう。スピードを上げるほど、先の先、その先……と、先の方を見て運転しなければ危険です。加速度的に変化している現在の世の中で、過去に立脚したデカルト思考でものごとを考えるというのは、先を全く見ないで後ろを見ながら高速で走っている状態です。これほど危ないことはありません。だから先を見るブレイクスルー思考エンジンが必要なわけです。

鈴木 他の店を見ても意味がないとも私は言い続けてきたのですが、この点もなかなか理解を得られません。良い物を見るのがなぜいけないのか、という話になるわけです。もちろん見ること自体が悪いわけではないのです。しかし、人は、良い物を見たら、本能的にマネしたくなるものです。このマネをするということが、悪いことなのです。モノマネをしていたら、変化に遅れていってしまいますし、ホンモノ以上のものはできません。良い物を見たら、それをいかに超えるかという発想を持てということです。この点、日比野さんはどうお考えですか。

日比野 良い事例を見る場合、事前にまずそれについての根本を考え、「あるべき姿」を自分の中で用意しておくことです。どんなに良いものでも、すでに形になってしまっている以上、それは過去の成功例でしかありません。あるべき姿が自分の中にあって、その上で過去を見るなら、得るところがありますが、あるべき姿を自分で持たずに事例研究をすると、その事例に引っ張られて、結局似たようなものしかできません。モノマネをしている限りは、決してトップランナーにはなれません。いまは、モノマネではなく、自ら考えて動く「自動者」にならなければいけません。考えるとは、「そもそも何だ?」「どうあるべきか」を考えることで、成功事例を探し求めることではないのです。

鈴木 私がセブン-イレブンを日本で始めようと考えた時、実は、アメリカですでに成功しているのだから、それと同じものを日本につくれば良いという安易な考え方で提携しました。ところが、アメリカでセブン-イレブンの研修を受けたら、これは日本では通用しないとすぐに悟りました。結局、自分たちで日本のお客様に合わせたコンビニエンスストアというものをつくろうと決心しました。しかし、当時スーパーも成長している最中で、同じような商品を扱ったのでは、品揃えの面でも価格の面でもスーパーに負けてしまうのは明らかでした。それなら、どんなナショナルブランド商品よりも品質の良いオリジナル商品をつくって、お客様に来てもらうしかないと考えました。そこから、おにぎりやお弁当、惣菜など、いまやコンビニの主力商品といわれる商品をつくっていったのです。他に道がなかったからそうしたのですが、今から考えると、創業当初からよそのモノマネをするという発想をとらなかったことが、現在につながっていると思います。モノマネをしていたら、数年経たないうちにつぶれていたでしょう。

日比野 それはたいへん重要なことです。どういう人たちを対象に自分たちは仕事をしているのか、自分ではなく、その対象となる人たちから見て何が根本なのか、そのように思考していくと、必ずユニーク「差」が出てきます。ブレイクスルー思考の最大の特徴は、「根本」から考えるので、モノマネしなくても、解決策を見つけ出すことができることです。

お客様の心の中にある潜在ニーズを察し
形にして提案することが必要な時代

鈴木 時代はどんどん変化しているので、新しいことに挑戦し続けなければいけません。小売業にしても経済にしても、結局人の活動なので、新しいことというのは、人の心の中にしかないのだと思います。いまや経済の動きは、経済学でなく心理学で見る時代だと私が言っている意味は、そこにあります。

日比野 私は、顧客満足ではなく、顧客感動を目指さなければならないと言っているのですが、それは、お客様の心の中にある潜在的な思いに到達する方法です。お客様が、その物にどんな存在価値=目的を見出しているか、それは、表面的に目的を聞くだけでは決してつかまえられません。冷凍冷蔵庫の事例で申し上げたように、目的の目的の目的……と追求していった時に初めて探り出すことができるものです。誰が、いつ、どこで、どのような目的でという点を把握して、そこを狙い撃ちすることで、お客様に涙を流して喜んでもらえる商品を送り出すことが可能になります。

鈴木 おっしゃる通り、お客様にただ何が欲しいですかと聞いても、ほんとうに心から望んでいるものはつかめないと思います。やはり、私たちの方から、お客様が求めているのは、こういうことではないか、という仮説を投げかけていかなければ潜在的なニーズに到達できません。商品開発、売場づくり、サービスと、あらゆる面でつねにお客様の立場に立って考え、いまのお客様のニーズを探ることが必要です。

日比野 いま私たちが取り組んでいることにコンセプトアウト型の商品やサービスの開発があります。もはや、お客様の話を聞いて物を供給するだけでは満足は与えられません。商品やサービスを供給する側が、ブレイクスルー思考の7つの原則を使って、お客様の心にあるものを見抜き、それをデザインして提案するということなのです。ニーズとは、お客様の心の中に潜在している目的、価値観、あるべき姿と解釈すると、場の設定、目的、価値観、あるべき姿から、仮説、検証を繰り返すことが、とても重要であることが分かりますね。そして、人間の心は、移ろいやすいということです。

鈴木 過去の方法を守っていたのでは、お客様の心をつかむことができなくなっていますね。たとえば、野菜などは、つい最近までは、有名な産地のものにお客様は価値を認めていました。キャベツであれば、首都圏なら群馬県のどこそこの産地のキャベツと言うと、喜んで買っていただくことができました。ところが、昨今はトレーサビリティということが言われるようになり、どこの誰がつくったということがはっきり分って、しかも新鮮なものが求められるようになっています。そのため、遠くの有名産地よりも、店舗の近くの畑で、朝採れたキャベツの方がお客様にとっては価値をもつようになってきました。このように、お客様の価値観が変わってしまうことで、昨日まで価値があったものが、今日はもう見向きもされないという時代になっています。これはたいへん怖いことです。ですから、今日よく売れているからといって、同じことをずっと続けていてはいけない、自己差別化を図り続けないといけないと言っています。

日比野 お客様の心にある欲求や価値観にぴったりと合うとともに、他にはない商品やサービスを送り出し続けることが重要で、それこそがコンセプトアウト型の商品開発です。マイクロソフトが世界を制覇する巨大な会社になったのは、ウィンドウズというコンセプトアウト型の商品の開発に成功したためです。