


(ひびの・しょうぞう)
1940年、愛知県生まれ。
米国ウィスコンシン大学大学院修了後、西ドイツ(現ドイツ)に留学し、経営工学を研究。
90年、南カリフォルニア大学G.ナドラー教授とともにブレイクスルー思考を提唱。
現在、中京大学社会学部社会学研究科教授。学術博士。
「南カリフォルニア大学出版優秀賞」「伴記念賞学術奨励賞」「米国リーダーシップコータリーベスト論文賞」等受賞多数。
『新ブレイクスルー思考』『ブレイクスルー思考のすすめ』『「パパ・ママ」創造理論』『トヨタの思考習慣』など著書多数。

鈴木 日比野さんは、今のように社会状況が激変している時代は、思考を大きく転換しなければならないと提言していらっしゃいますね。小売業も、かつての物不足の時代から物余りの時代へ、大きなパラダイムシフトが起こり、過去の物不足の時代の方法は通用しなくなりました。社会も消費市場も大きく変化している中にあっては、過去の延長線上で考えていると、変化から取り残されてしまうだけです。ですから、私はつねづね、社内でも過去を捨てなさい、新しいことに挑戦しなさいと言い続けてきました。しかし、なかなか過去から脱却できないのが現状です。
今日は、日比野さんが提唱されているブレイクスルー思考について教えていただき、今後の仕事に活かしていきたいと考えています。
日比野 過去と現在を分析して、過去と現在から学び、未来を考えようというのが従来の思考で、「分析アプローチ」とも言われています。これをデカルト思考と呼んでいます。しかし、現在のように世界も社会も激動し、人の欲求も変わってくると、デカルト思考によって過去からの延長で未来を考えるという方法は通用しなくなってきました。そこで私どもはブレイクスルー思考を提唱しました。ブレイクスルー思考というのは、デカルト思考と思考の方向が全く反対で、未来を明確にデザインして、未来から学ぶ思考で、「デザインアプローチ」と呼ばれています。哲学、認識論、そしていかに問題解決をするかというアプローチと道具を備えた一つの世界です。
鈴木 デカルトというのは16世紀の哲学者ですね。
日比野 そうです。デカルト以降、事実に基づいて物事を考えるという思考が、近代社会の主流になったのですが、激動する時代背景を受けて、それがいまや使えなくなってしまったわけです。いわば、「思考のパラダイムシフト」が起こり始めているのです。ブレイクスルー思考というのは、物事の根本に戻り、あるべき姿から考えるものです。
従来のデカルト思考では、たとえば、「コンビニ」の実態を捉え、セブン-イレブンは、日本でもアメリカでも、物事の根本は変わらないと認識します。それゆえ、この実態を真似して導入できると考えるのです。しかし、ブレイクスルー思考では、システム観という認識論を用いて、物事の根本は、物事の存在価値であり、目的であると考えるのです。現状の実態を捉えることではなく、目的を明確に捉えることが、根本、本質を捉えることであると主張しているのです。
鈴木 目的を考える場合も、いったい誰にとっての目的なのかということを考えることが重要でしょう。
日比野 おっしゃる通りです。ブレイクスルー思考には(注)7つの原則があるのですが、鈴木さんが指摘されたことは、まさにユニーク「差」の原則です。本質は、誰が、いつ、どこでという「場」の設定によって全部違ってきます。
以前、ある大手家電メーカーの依頼を受けて、冷凍冷蔵庫の開発チームの指揮を執ったことがありました。そこの開発陣は皆さん優秀でしたが、従来のデカルト思考で発想しているときは、冷凍冷蔵庫の根本はものを冷やし、保存するところにあると考えていました。しかし、いま冷凍冷蔵庫を買っているのは誰かを考え、その人たちの目的を考えていくと、まったく違う根本が見えてきました。まず、ほんとうにいま冷凍冷蔵庫を買っているのは誰かを追求していった結果、新婚夫妻という答が出てきました。それなら、新婚夫妻はどういう目的で冷凍冷蔵庫を求めるのか?その目的は何か?その目的は?と、目的の目的を、徹底的に追求していきました。その結果新婚夫妻は共稼ぎが多く、お互いにたいへん忙しいのだから、時間をつくることが目的だという結論に達しました。そこで、冷凍したものを取り出して、そのまますぐに切れる冷凍冷蔵庫を開発したら、たいへんなヒット商品になりました。貴社も世界に広がっています。何処の地域、どんな人々が、いつの時点で、何のために、買い物するかを考え、その地域、その人々、その時代にあった「あるべき姿」を考えることが必要でしょうね。過去や現状ではなく、その「あるべき姿」を基に、仮説を立て、検証する思考が、求められているのではないでしょうか。
鈴木 ブレイクスルー思考では、文字通り現状を打破するために、過去の延長で考えることを否定するのですね。
日比野 おっしゃる通りです。従来のデカルト思考では、成功事例や過去の実績を参考にして考えてきましたから、「過去の延長線上で考えるな!!」と厳命すると、人々は、何から考えたらよいか分からなくなって「思考停止」に陥ってしまいます。そこで登場したのが、根本から考え「あるべき姿」から、仮説、検証するブレイクスルー思考なのです。過去を否定するためには、どうしても、根本から考える「新しい思考」が必要なのです。ブレイクスルー思考を用いて、あるべき姿ができあがれば、そこから過去の技術やノウハウを活かすことが可能になります。デカルト思考では、いままであったものを引き延ばして、未来に使えるようにしようとしますが、ブレイクスルー思考はまったく反対に、未来の「あるべき姿」を明確にすることで、現にある人材、技術、情報などの資産を活かす方法を見いだすことができます。