

片平 セブン-イレブンで感心したのは、最近ではビールのチルド化です。そのような取り組みを定着させるのはたいへんだろうと思って見ていましたが、それを成功させました。そういうチャレンジができるということは素晴らしいことです。
鈴木 チルド化は、自分たちでトータルにコールドチェーン(一貫した低温物流体制)を確立しないとできません。ですから、たいへん苦労した面もありますが、いったんそれを確立すると、ビールだけでなくいろいろな商品にもそれが使えます。ですから、そのチャレンジによって、お客様へのサービスのレベルを今後とも上げていくことが可能になります。私たちは、そういう視点で取り組んでいます。
片平 それから、私は「凍頂烏龍茶」が大好きなのですが、いままでの烏龍茶しか知らなかった人たちにとっては、あれは1つの驚きでした。ただ、当初の印象では、あのような商品はかなり我慢して売っていかないと生き残れないのではないかと危惧していました。しかし、これも、しっかりと育てて、定着させているのでうれしい限りです。
鈴木 あの「凍頂烏龍茶」は、台湾のお茶畑まで担当者が入り込んで開発した商品です。緑茶にしても、メーカーさん、お茶の産地まで巻き込んで開発を進めるというのが、セブン-イレブンのマーチャンダイジングです。そのような中から、「玉露庵」のような、従来の緑茶飲料の常識を破った商品も生み出し、お客様の支持を得ています。
片平 なるほど、ひじょうにこだわりをもったモノづくりを実践しているわけですね。ただ、そのようなこだわりのストーリーを知っているお客様は、意外と少ないのではないでしょうか。いま、お客様が期待しているのは、「うちのお店はなぜこの商品を置いているのか」ということをきちんと伝えるストーリーです。この商品はこれだけの仕入れ原価だから百円で売るとこれだけの利益がある、という経済的な理由ではない、しっかりとした意味づけがあることが必要になっています。最近、セブン-イレブンのウェブサイトでは、この商品はこういう理由で開発し、こういう人たちに支持されているというストーリーが、少しずつ紹介されるようになっていますね。そのような話によって、お客様は商品の価値をはっきりと認識することができます。ただ良い商品を開発して棚に置いておくだけではなく、その裏にあるセブン-イレブンの思いもしっかり伝えてゆくことがブランドづくりには不可欠なのです。
鈴木 その点では、私たちは接客や試食を通じて、きちんとお客様に商品のこだわりを伝えていくということを大切にしています。
従来、スーパーもコンビニエンスストアも、セルフサービスが当たり前だと考えられてきました。しかし、消費飽和の時代は、高度成長時代のように、お客様が今日は何を買おうと決めて来店されるわけではなく、何か良い物はないかとお店に来て、気に入った商品があれば買っていく、いわば衝動買いの時代です。そういう時代には、接客、試食などはもとより、陳列の仕方、陳列量などあらゆる点で商品を目立たせ、お客様の購買意欲に働きかけることが必要です。ですから、いまは、スーパーでもコンビニエンスストアでも、接客サービスが基本なのです。
片平 私の経験では、強いブランドのお店や会社や工場に行くと、共通していることが2つあります。それは私のような外部の人間にも、そこで働く人たちがたいへん気持ちよくあいさつをしてくれること。そしてトイレがたいへんきれいだということです。これをブランドの強さと理屈で結びつけるのは難しいのですが、必ずこの2つの点が成り立っています。これをどう考えれば良いのか、鈴木さんにうかがおうと思っていました。
鈴木 それは、たいへん重要なことです。つい最近も私は、セブン-イレブンのオーナーさんが年に1度集まる「オーナー様懇親会」で、トイレをきれいにする必要性を話しました。いまや、かなりの家庭に洗浄機能がついたトイレが普及しています。それにもかかわらず、店のトイレが旧態依然としていたら、お客様はそれを気持ちよく利用できないはずですから、見直さなければならないと思います。気持ちよくあいさつをする、あるいは売場もトイレも徹底してクリーンに保つといった商売の基本こそが、お客様のお店に対する評価を決定づけます。そして、その評価が評判となって周囲の人たちに伝わることで、お店のイメージもできあがっていくのではないでしょうか。
片平 そのようにお客様の気持ちになりきって基本的なことを徹底できるということが、強いブランドの基盤ですね。
鈴木 今回、持株会社と事業会社との役割分担を明確にして、サービスという点では、持株会社は主に株主の皆様を対象に、事業会社はお客様を対象に、それぞれが専念するようにしました。それによって、より基本を徹底して、それぞれの価値を高めていこうと考えています。
片平 役割分担の明確化というのはたいへん重要なポイントです。従来の日本の会社では、ブランドを確立してこんなに利益を生んでいるという株主に訴えるべき価値と、1つ1つのブランドの素晴らしさというお客様に訴えるべき価値を、混同してしまうきらいがありました。お客様は、ブランドに価値を見いだしているのに、商品を売る時に持株会社の方の名前をブランド名より強く打ち出して顧客の反発を受けた例もあります。私は一物一価をもじって、「一物一名」と言っているのですが、お客様に対しては、同じモノであればつねに1つの名前を打ち出して、ブランドを確立していくことが不可欠です。
鈴木 まったく同感です。今日は、ブランドの確立について、さまざまな面からご説明いただき、これからセブン&アイHLDGS.のブランド確立に向けて、たいへん参考になりました。お忙しい中、長時間どうもありがとうございました。