

片平 私は、そのことを本にも書いたのですが、いまは競合(ライバル)に負けないようにするのではなく、お客様に負けないようにすることが必要な時代です。
鈴木 私も以前からずっと、他の店を見るなと社員に言い続けてきました。それは、他の店のモノマネをするなという意味です。他の店を見て、何か良い点があると、どうしてもそれをマネしたくなるのが人情です。しかし、成長の途上でモノを普及させる必要がある段階までなら、マネをすることに価値はあっても、その段階を過ぎたら、モノマネではお客様は満足してくれません。独創性が加わらないとお客様には認めてもらえません。
片平 たとえばお菓子の玄人(くろうと)は、お菓子にとことんのめり込んでいて、素人が知らないおいしさを思い描き、素人の思いつかないようなお菓子のアイデアをいつも頭に思い浮かべている。そういう人がモノづくりをしてくれないと、ほんとうの満足は提供できませんね。
かつてのアメリカ型の経営学では、競争戦略ということで、世界中からベストのモノを探してきて、まずそのマネをすることを良しとしていました。しかし、モノマネでは、元の水準以上のものは決して生まれません。お客様の方はどんどん新しい体験を取り入れながらベストの水準自体を高めている中で、それでは負けてしまいます。お客様と、商品やサービスを提供する側と、どちらが先に新しい勉強をして、次のベストのものを見いだしていくか、いまはそういう競争の時代です。
鈴木 私は自分でセブン-イレブンを立ち上げ、経営してきましたが、とくにセブン-イレブンというブランドを育てようと意識してきたわけではありませんでした。ただ、お弁当やおにぎり、アイスクリームなど、セブン-イレブンで扱う商品1つ1つについて、お客様に、「あの店で買おう」「あの店なら安心だ」と考えてもらえるような商品づくりに全力を注いできました。そういうこだわりの積み重ねが、結果としてセブン-イレブンをブランドとして認めてもらえたような気がします。
片平 おっしゃる通り、何かを買う時、他の店ではなく、あのお店で買おうとお客様に思っていただくことが大切です。たとえば、車に乗っていて、おなかがすいた時、ついセブン-イレブンのあのオレンジと赤、グリーンのマークを探してしまうというのは、どうして起こるのか。基本は、小さな感銘、感激、感動の積み重ねなのだと思います。
比喩的にいえば、ある時、1つの商品を買って感銘を受けると、脳にセブン-イレブンのマークのしわが刻まれるわけです。しかし、1度だけしわをつくれば良いのではなく、つねに刻み続けられることが必要です。お客様がセブン-イレブンのお店に行くたびに小さな驚きがあり、うれしいと感じると、今度は、「次に行った時も必ず、他にはない何かうれしいことがあるに違いない」と期待がふくらみます。そして、その期待に応えてもらえると、やっぱり、「さすが」という思いが生まれます。それが続くことで脳に刻まれたしわはますます深くなります。ブランドというのはそのように確立されていくのだと思います。
鈴木 そのような感銘を生み出す原動力というのは何なのでしょうか。
片平 それは一貫した信念や哲学であり、それをお客様にきちんと伝えていくことが大切なのではないかと思います。イギリスのセインズベリーという大手流通会社は、いま、国際的には目立ちませんが、ロンドンには根強いファンがいます。それは、モノが不足していた時代にも、一貫してアッパーミドルを対象とした商品の提供に努め、出店する場所もアッパーミドル層が中心となっている地域に限定してきました。また、そこで扱っている赤い箱の紅茶に代表されるように、単価の安い商品でも、どんな時代にも決して味や品質を落とさないようにしてきました。このように絶対に妥協することなく守っている自分たちの哲学が、いたるところに表れています。そして、そのようなストーリーが、広報などで、ことあるごとに発信され、お客様のマインドに働きかけています。
鈴木 セブン-イレブンでも、こだわりを持った独自のモノづくりを続けています。セブン-イレブンが創業した当時は、一般にNB(ナショナルブランド)商品が最も良い商品と受け止められていて、お客様の憧れの的になっていました。スーパーはそれを他よりも安く提供することで人気を博して成長を遂げました。私がセブン-イレブンを日本に導入すると言うと、そんな小さな店でNB商品をスーパーよりも安く売れるはずがないのだから、絶対に成功しないと言われました。しかし、私はNB商品をスーパーと競争して安く売ろうと考えていたわけではありません。NB商品に優る商品を、自分たちで開発して、セブン-イレブンだけでしか手に入らないものを提供しようと考えたのです。その結果、セブン-イレブンはいまも独自の自社開発商品に力を入れ続け、いまではセブン-イレブンの売上げの52%が自社開発商品です。
片平 そのような「ならでは」という商品づくりが、強いブランドの確立には不可欠です。強いブランドを育てている人たちが、共通して口癖のように言うのが、商品などの企画書を見る際、そこにある会社名を他の会社に置き換えてもそれが成り立ってしまうようなことがないかどうかということです。たとえば、ホンダならホンダという名前をトヨタに置き換えても成り立つようなら、その車を開発しても時間のムダだというわけです。その会社でなければできないというアイデアでなければ、お客様の驚きや感動は呼び起こせません。
鈴木 そのためには、つねに自分たち自身で自分たちのこれまでの取り組みを超えていくような、自己差別化が必要ですね。そうしなければ、お客様が感動するような新しいアイデアは生まれてきません。私たちは、そのような、いままでにない新しい価値を生み出すことにチャレンジしています。
片平 それはたいへん重要なことです。何か新しいアイデアが出てきたときに、そのリスクだけに目を向けて「Yes,but」と言って、結局いままでの延長上のものに引き戻してしまうような議論をする人は、検討の場から出て行ってもらわないといけません。リーダーは新しいことにチャレンジしていく気概を社内につくっていくことが大切でしょう。お客様が跳び上がって喜ぶような無理難題を見つけ出して、社内にその解決を求める、それがリーダーの役割です。イジメのための無理難題はいくらでもあるでしょうが(笑)、お客様が喜ぶような無理難題というのは意外と見つからないものです。