新・総合生活産業  変化し続ける社会の中で、進化し続ける「新・総合生活産業」を目指しています。

対談 ブレイクスルーのヒント

モノマネでない「価値創造」とお客様の期待を超える「満足」の提供で消費飽和時代に生き残る


セブン&アイHLDGS. 代表取締役会長 鈴木敏文
対談 ブレイクスルーのヒント

(きせ・てるお)
1947年、福岡県生まれ。1970年、京都大学卒業後、東陶機器(株)に入社。営業本部営業企画部長、取締役経営戦略室長、取締役専務執行役員販売推進グループ長を経て、2003 年、代表取締役社長に就任。2007 年5 月、創立90周年を機に社名を「TOTO株式会社」に変更。


TOTO 株式会社 代表取締役社長 木瀬 照雄
2008年5月収録

ウォシュレットを通じて「価値」を伝えることの重要さに着目

鈴木 今日は、昨年創立90周年を迎えられたTOTOの木瀬社長をお迎えしました。TOTOさんはいまや世界でもトップブランドとなられていますが、その背景には長い歴史の中でその時代に即した経営努力を営々と重ねてこられたことがあるのではないかと思います。昨今、事業を取り巻く環境が大きく変化している中で、木瀬さんは単なるモノの提供ではなく、「価値」の提供を重視されているとうかがっています。新しい生活価値の提供は、「新・総合生活産業」の創造を目指す私どもセブン&アイHLDGS.にとっても最大の使命であると考えています。今日は、時代の変化に合わせた経営のあり方について、いろいろお話をうかがいたいと思います。

木瀬 TOTOの歩みは、日本陶器合名会社(現ノリタケカンパニーリミテド)の中に設立された製陶研究所で、1914年に日本初の陶器製「腰掛け水洗便器」の製造に成功したことに始まります。当時、海外には陶製の立派な便器があるということで、それを自分たちの手でつくろうと研究を始めたことが当社のルーツです。衛生陶器をつくるには、大量の原料や燃料が必要です。そこで、筑豊炭田に近く、門司港を通じて原料輸入や製品出荷もしやすい北九州市小倉の地に東洋陶器(現TOTO)を1917年に設立しました。創立当時は、下水道も整備されていない時代ですから、衛生陶器の市場などはありません。今で言うベンチャーですね。よく企業の区切りは30年と言われますが、TOTOの90年の歴史を振り返りましても、ちょうど30年1世代で区切ることができるように思います。第1世代は食器づくりで経営を支えながら衛生陶器の市場を開拓していった時代です。この時代に自ら水栓金具の生産を始めて、水回り製品の品質向上を図るなど、しっかりとした製品づくりを進めていきました。第2世代は、日本で初めて強化プラスチックの浴槽や世界初のユニットバスルーム工法を開発するなど市場を拓いていきました。そして第3世代になると、快適な生活を求める時代に合わせて、ウォシュレットやシステムキッチンという新たな価値の提供を図ってきました。

鈴木 なるほど、その時代、その時代の生活の中に潜在しているニーズを見出し、新しい価値を提供し続けてきたということがよくわかります。近年では、やはりウォシュレットが生活スタイルの変化をもたらしたという点でたいへんインパクトのある製品ですね。

木瀬 少し前には、若い人たちが和式のトイレを使えないと話題になりましたが、最近ではウォシュレットがないと困るという時代になっているようです(笑)。
 このウォシュレットは、私どもにとっても大きな転機となった製品といえます。まず、その良さを知ってもらうところから始めなければなりませんでした。また、それまでは、トイレに電気など使っていませんでしたから、トイレに電源を引いてコンセントをつけるところからご案内しなければなりません。実際に売っていただくお店の方にもさまざまな知識が必要です。そこで水道工事店の方やそのご夫人を呼んで講習会を開き、まず販売をしていただく方たちご自身に使っていただきました。そうすると、3日使ったらもう手放せなくなるという声が数多く寄せられました。これで、「いける」という確信は持ちましたが、何せ知名度が限りなくゼロに近い製品でしたので、やはり最初の1、2年は販売に苦心しました。そんな中から、価値をしっかりとお客様に伝えながら普及を図るという企業文化も育ちました。

現在は、「お客様が自分の生活を自ら合理化する」時代

鈴木 今、価値を伝えていくことの大切さをご指摘になりましたが、まったく同感です。
 私は戦後のモノ不足の時代から消費飽和と呼ばれている現在までの時代の変化をこんなふうにとらえています。モノ不足の時代は「メーカーさんの合理化の時代」でした。あらゆる分野でメーカーさんが、合理化を推し進めることでモノの価格を安くして、多くの人がほしいモノを手にできるようにしました。その後にきたのが「流通業の合理化の時代」です。これは私どものイトーヨーカドーのように、大量に仕入れて大量に販売する仕組みをつくり出し、幅広いお客様が、いつでも安価に一定の品質の商品を手に入れることができるようにしました。高度成長を背景に、この流通業の合理化によって、生活の中にモノが行き渡っていったわけです。
 そして、現在は「お客様自身が生活の合理化を図る時代」です。たくさんのモノや情報があふれる中で、お客様がご自分の生活スタイルを考え、必要なもの、必要でないものを取捨選択して、合理的な生活を営もうというようになってきました。ですから、今の時代は商品やサービスなどあらゆるものをお客様の立場に立って考えて提供していかなければ、ご満足いただくことはできません。

木瀬 おっしゃる通りです。モノ不足の時代には、製品をつくって市場に出せば売れました。
 しかし、今ではいくら技術的に優れているからといって、メーカーの思い込みや押しつけは決して受け入れられない時代です。お客様自身の好き嫌いやライフスタイルなど、自分の価値観でモノを選ぶようになりました。こういう時代ですから、お客様の期待以上の満足を提供していかないと生き残れない、つまり、お客様、社会から必要とされなくなると考えています。
 そこで、私どもではモノを単に売るというのではなく、ショールームで接客してお客様お一人おひとりのライフスタイルをお聞きして、それに応えていくということを最も大切にしています。高度成長期は、住宅着工の伸びに乗って成長することができましたが、バブルが崩壊しマーケットは大きく変わりました。新築需要に頼っていたのでは価格競争に陥り、成長ができなくなったのです。私どもでは、お客様の期待以上の満足を提供したいという思いをこめて、「リフォーム」ではなく「リモデル」という言葉を使っていますが、これから生き残っていくためには、自らリモデル需要を積極的に掘り起こして行くことが必要です。そのために、数年前からショールームの展開に力を注ぎ、今では全国で106カ所になりました。
 また、安心・信頼できる施工ネットワークを構築するため、全国約5700店の「TOTOリモデルクラブ」を組織化しています。さらに、アフターサービスでは、365日24時間体制でお客様からの修理などの受付をしています。