
| 2008年2月 |
大きな社会問題となっている食の安全・安心や、健康的な生活の維持・促進、また、多くのお客様が利用する「公共の場」としての店舗づくりなど、セブン&アイHLDGS. のCSRの取り組みについて、前回にひきつづき、各事業会社の経営トップと社外の専門家・研究者との対話を通してお伝えします。
イトーヨーカドーでは、現在、ユニバーサルデザイン(Universal Design:以下UD)の発想、すなわち「お体の不自由な方だけでなく、健常者をはじめ、高齢者からお子様まで、どなたにも使いやすいデザインにする」という考え方に基づいて、安全・快適・便利な店舗づくりに力を注いでいます。そこで、日本におけるUDコンサルティングの草分けであるトライポッド・デザイン株式会社 中川聰代表をお招きし、亀井社長とUD導入の意義や可能性について語っていただきました。

中川 : 最近のある調査によると、約7割の人々が「ユニバーサルデザイン(UD)」という言葉を知っていて、そのうち7割、つまり全体の約半分の人々がUDの意味も理解しているそうです。しかし、イトーヨーカドーが最初にUDに着手した頃は、UDはもちろん「バリアフリー」という言葉すら、あまり知られていない時代でしたね。
亀井 : はい。バリアフリーの考え方を最初に取り入れた和光店は、「ハートビル法 ※」が施行される直前の1994年にオープンしました。その後、2000年11月にオープンした木場店以降の新店舗では、施設・設備から什器に至るまで、バリアフリーの考え方をさらに一歩進めたUDの考え方を取り入れた店舗づくりを進めてきました(1)。
※ハートビル法…1994年6月に施行された「高齢者、身体障がい者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」のこと。2006年12月に廃止され、同月に施行されたバリアフリー新法により拡充された内容でひきつがれた。

中川 :1990年代半ばから2000年前半というと、バブル経済が崩壊し、流通業に限らず多くの企業が経営の効率化・スリム化に必死に取り組んでいた時期です。その頃からイトーヨーカドーがあえてバリアフリーやUDの導入を進めているのを見て、驚くと同時に大変感心しました。
亀井 :確かに効率性の追求も大切で、我々も日々追求しています。その一方で、当社には「だからといって切り捨ててはいけない大切なものがある」という発想──小売業としての社会的責任を全うしなければならないという考えがありました。
中川 :その最たるものが、すべてのお客様への心配りであり、これがUDの推進に結びついたのですね。
中川 :亀井社長が考えるUD推進のポイントとは何ですか?
亀井 :一つは、われわれ供給者側の発想ではなく、徹底してご利用いただくお客様の視点に立って、あるべきサービスを追求することです。イトーヨーカドーには、小さなお子様からご高齢の方、妊産婦、障がいのある方など、さまざまなお客様が来店されます。そうしたお客様の声に真摯に耳を傾け、誰もが安全・快 適・便利にご利用いただける施設・設備とサービスを提供していかなければなりません(2)。

中川 :私は、ひんぱんにUDに関するユーザー調査を行っていますが、毎回、何かしら新しい発見があります。イトーヨーカドーさんもお客様の声からヒントを得て、それを実際の店舗づくり、店舗運営に活かしてこられたのですね。
亀井 :現場の従業員がお客様の声に耳を傾けながら試行錯誤を繰り返してきました。例えば、階段の幅や段差、手すりの高さや太さはどの程度が最適なのか、視認性を高めるにはどんな配色がいいのか、お子さんの遊び場に置くクッションの柔らかさや角の丸め方はどうすればいいのかなど、お客様の視点に立っ ていろいろやってみて、はじめてわかってくるのです。お客様の視点といえば、観葉植物の葉なども子供の目の高さに張り出していると思わぬ事故につながりかねませんので、設置場所には十分注意しています。
中川 :単なる「ハートビル法」への対応といったレベルにとどまらず、現場の発想を重視して、お客様の安全性や快適性、利便性を徹底的に追求してきたのですね。
亀井 :UD推進のもう一つの重要なポイントは、従業員のホスピタリティです。どんなに優れた施設・設備をつくっても、ハードウェアだけで100%の安全・安心を提供することはできません。お客様と接する従業員のホスピタリティ、「人へのやさしさ」や「おもてなしの心」というソフトウェアが必要不可欠です。イトーヨーカドーでは、1994年に取り組みを開始した当初から「ハード」と「ハート」の両面からの推進を図ってきました。
中川 :具体的にはどのような取り組みになるのですか?
亀井 :一例ですが、すべての従業員が手話を習っています。もっとも、店舗で実際に使う機会は少ないかもしれませんし、学んだからといって十分に生かせるとは限りませんが、一人ひとりに「なぜ自分が手話を学ぶのか」を考えてもらうだけでも大きな意味があると思っています。
中川 :つまり、多様な人々に配慮することの大切さを、理念として「教える」だけでなく、実践の中で「気づき」「考え」「感じ」てもらおうというわけですね。最後に、UD推進について今後の抱負をお聞かせください。
亀井 :人への思いやり、やさしさといったものに限界がないように、われわれのUDの取り組みもまだまだ道半ばであると考えています。したがって、次代を担う人材の育成の中でUDの教育を強化し、社員一人ひとりがUDを進化させていくようにしていきたいと考えています。そして、今後ますます進む少子高齢社会にあって、誰もが、いつまでも、安心して活躍できる地域社会をつくる一翼を担っていきたいと思っています。
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